補給戦

補給戦―何が勝敗を決定するのか (中公文庫BIBLIO)

補給戦―何が勝敗を決定するのか (中公文庫BIBLIO)

「戦争のプロは兵站を語り,戦争の素人は戦略を語る」

で有名な戦争史書。

……これ解説の人が書いた一文で、作者が書いたわけじゃないですが。

16世紀〜20世紀中頃(つまり第二次大戦)までのヨーロッパで起きた著名な戦争について、

兵站という観点から考察している本です。


内容も面白いのですが、まず私自身が欧州の戦史について全くの無知だったため、

非常に勉強になりました。

三十年戦争普仏戦争なんて、どこかで名前聞いた程度にしか知らなかったので、

本を読むのと並行して色々検索して調べたりしてました。

……本当ヨーロッパって戦争多いんですね……。

EUができたとき、ヨーロッパの人達はさぞかし驚いたか、全く信用してなかったでしょうね。


肝心の内容ですが、いきなり結論から言ってしまうと、至極単純です。

20世紀初頭まで、戦争中の補給は現地徴発、つまり略奪が基本でした。

第一次大戦以降、補給が組織された補給部隊(だけ)により行われるようになったのは、

単に弾薬や自動車燃料などの必要量が、食料の荷重よりも圧倒的に多くなり、

それらが現地調達不可能な物資だっただけなのです。


残念ながらこの本は古く(1977年)、現代戦についての言及がなされていません。

60年前とは比較にならないぐらい高度が技術を持っている現代での戦争は、果たして未だ

この本の通り

「本当は現地徴発したいけど弾薬や燃料はできないから補給を続ける」

という形で戦争しているのでしょうか。


あるいはこんな空想もできますね。

もし高度なエネルギー精製技術が開発されて、ガソリン等の燃料がいらなくなったとしたら?

火器もエネルギー放出式に変わって実弾がなくなったとしたら?

そのときの戦争では現地調達が主な補給源となるのでしょうか?

色々と考えさせられる、興味深い一冊でした。


最後にいくつか、お気に入りの箇所を引用紹介するとしましょう。

司令官が作戦行動とか戦闘発起、前進、浸透、包囲、せん滅、消耗など、
要するに長々と続く全線略の実行を頭に描き始める以前に、彼には
しなければならないし当然すべき事柄がある。
それは麾下の兵卒に対して、それなくしては兵として生きられない
一日当たり三〇〇〇キロカロリーを補給できるかどうか、
自分の才能を確かめることである。

(補給戦、中央公論新社、p10-11)

このためには偉大な戦略的才能のみならず、
地味なハードワークや冷静な計算が必要になってこよう。

(補給戦、中央公論新社、p11)

華々しい表舞台に立ちたい、と思うのは誰しも仕方のないことですし、

少し戦術をかじった人なら「ああしたい」「こうしたい」と思うのでしょう。

しかし、もっと基本的な部分があるよね、ってことです。

地道な努力があってこそ、華々しく活躍できる人がいるのです。


もう一つ。

歴史上の偉大な軍人は、計画立案の時間的長さには限界があることを悟っていた。
これを悟らなかった軍人は、必ずしも成功を収めなかった。
(補給戦、中央公論新社、p340)

状況は刻一刻と変化していきます。

もちろんある程度は早さと正確さを両立させることはできるでしょう。

しかし実際には正確に正確に、と進めていては何もはじまりません。

計画作ってる最中に状況は変わるのです。

たまには思い切って決断してみるのもいいかも知れませんね。