高い予測精度を有する専門家の特徴
今年の初め、新型コロナウィルスがこれほど世界的に流行するなど、私は全く想像していませんでした。しかし、このような事態になって、あらためて「超予測力」に書いてあったことが正しかったと実感しています。
超予測力―ー不確実な時代の先を読む10カ条 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者:フィリップ・E・テトロック,ダン・ガードナー
- 発売日: 2018/05/02
- メディア: 文庫
超予測力の書評については、去年私が記事を書いているので、そちらも是非読んでみてください。
その記事の後半から一部を引用します。
2001年4月11日、当時の米国国務長官ドナルド・ラムズフェルドが、ジョージ・W・ブッシュ大統領とディック・チェイニー副大統領宛に、リントン・ウェルズ博士が執筆した、1900年から2000年までの、10年ごとの戦略的状況の分析メモを送付しました。
その内容は、10年ごとの戦略分析は「全て」的外れであるということを示していました。例えば、1930年の国防計画基準には「今後10年は戦争はしない」と記されていますが、実際には9年後に世界大戦が勃発しています。1960年の時点では、まだ米国国民の大半はベトナムという国を知らず、1990年にはインターネットという概念を国民の大半が知らない、という状態でした。
「2010年の状況は、我々の想定しているものとは全く異なるものだから、それを前提にして計画を立てるべき」とそのメモは締めくくられていました。そしてその半年後、911が発生したのです。
もし、米国政府で今も同様のメモが更新されているのであれば、この新型コロナウィルスパンデミックも末尾に書き足されていることでしょう。
未来を予測できないからこそ、予測するというのが本書の目的の一つとなっています。
予測のテクニックは思った以上に難しく、我々一般人が真似をすることはかなり困難です。
しかし、他者の予測を評価する、すなわち予測リテラシーについてはある程度学ぶことができます。
本記事では、「超予測力」の3章を主に引用し、専門家達の予測の評価方法を紹介していきます。
デタラメ以下の専門家達
本書の3章では、専門家達の予測能力を図る実験を行っています。実験の内容を簡単に説明すると、政治に関するいくつかの予測を専門家達に行ってもらい、一定時間経過したあとにその結果を検証するというものです。
その結果に基づき、専門家達をグループ1(デタラメ以下の予測力)、グループ2(デタラメよりマシ)に分類しました。
グループ1には以下のような特徴がありました。
- 自らの思想信条を中心に思考する。思想信条の内容そのものは無関係
- 複雑な問題をお気に入りの因果関係のテンプレートに押し込もうとする
- テンプレートにそぐわないものはノイズとして捨てる
- 分析結果は非常に明快
- 「そのうえ」「しかも」といった言葉を連発し、自分の主張が正しく他の主張が間違っている理由を並べ立てる
- 極端に自信にあふれ、さまざまな事象について「起こり得ない」「確実」などと言い切る傾向が高い
- 自らの結論を固く信じ、予測が明らかに誤っていることがわかっても、なかなか考えを変えようとしない
グループ1の思想信条は、予測の正確さを高めるどころかむしろ歪めていました。また、グループ1は、多くの情報を集めても、全てを色眼鏡で見るために活用できなませんでした。
しかし、メディアにおいてはグループ1は成功しています。メディアや一般大衆は、シンプルで好きのない明快なストーリーを好むので、自信にあふれ、確実であると言い切るグループ1は人気が高くなるのです。
(2020/04/20 追記) ここでいうメディアとは、旧来のマスメディア、すなわち、テレビや新聞などを主体に考えていることに注意してください。本文には明記されていませんが、個人が直接SNSで発信することは含まれておりません。
デタラメよりも予測精度の高い専門家達
一方、グループ2には以下のような特徴がありました。
- 現実的
- 直面した問題に応じてさまざまな分析ツールを駆使
- できるだけ多くの情報源から、できるだけ多くの情報を集めようとする
- 思考するときに頭の中のギアを頻繁に切り替える
- 「しかし」「だが」「とはいえ」「それに対して」といった転換語が目立つ
- 確実性ではなく、可能性や確率に言及する
- グループ1に比べ、自らの誤りを認め、考えを変える傾向がある
グループ2は、メディアでは成功しません。グループ1ほど自信がなく、何かが確実あるいは不可能と言うことを避けます。「かもしれない」といったぼんやりとした表現を選ぶだけでなく、1つの問題をさまざまな視点から見るので、その説明は「しかし」や「一方」が多く、難解です。
聴衆は不確実性を好まないので、グループ2はメディア人気が低くなる傾向があるのです。
まとめ
今回のパンデミックにおいて様々な専門家達が意見を述べていて、どの意見を信じたらいいかは難しいですが、以下の言葉は参考になるかもしれません。
知名度と正確さには逆相関が見られたのだ。有名な専門家ほど、その予測の正確さは低かった。(p.109)
(2020/04/20 追記) ここでいう「有名」とは、テレビや新聞などの旧来型マスメディアに頻繁に登場する人だと考えてください。
当然ながらこの言葉は普遍の法則ではありません。しかし、何度もメディアに登場し、明確に「こうなる」と断言するような専門家の意見については、多少の警戒心を持って接しても損はないでしょう。
(2020/04/20 追記) タイトルが本文の内容を反映していないとの指摘があったため、タイトルを修正しました。