ニコニコ技術文化祭トークセッション「二次元に行けないなら創ろう!としてしまった人たちの反省会」

昨年末にニコニコ動画に投稿された、「等身大初音ミクを作ってみた」という動画を見て、私は大きな衝撃を受けました。

その技術力もさることながら、2年もかけて作ったというその執念に非常に感銘を覚えたものです。

ロボット制作だけでなく、理想の服を着せたいあまりに服飾の知識を独学で身につけたり、理想の髪にするために染物の技術を学んだりとそのエネルギーは凄まじく、私は当初一人でやっているとは信じられませんでした。名義だけ一人のように見せ、実際には複数人でやっているんじゃないかと疑ったほどです。



しかし、年が明けてからのインタビューで、作者、みさいる氏は本当に一人であるということがわかりました。

http://ascii.jp/elem/000/000/493/493550/

インタビューを読む限り、非常に芸術家志向の強い方だということがよくわかります。ハッカー志向と言ってもいいかもしれません。

そのみさいる氏が東工大の学祭にてパネルディスカッションに参加するということで、思わず聴きにいってきてしまいました。

概要

日時 2010/10/24(日) 13:05 - 14:05
場所 東京工業大学 M011講義室
公式URL http://koudaisai.jp/event/nicofes/
ハッシュタグ #nicobun

参加者(説明は公式より引用)

パネリスト
MC

内容

  • 自己紹介
    • 秋の『』
    • ミサイルP
      • ミクに使ったコアの部品は、当時は最新型だったらしい
      • 元々ミクに使う予定で買ったわけじゃないのだが、結局使うことになった

以下、特に明記しない限りは質問はいなんず氏より発せられたものとする。

Q. 二次元に行こうとしましたよね?(いなんず氏、以下I)

秋の『』氏(以下A):もちろん。しかしそのままだと画面を突き破ってしまうので、日々鍛錬。イメトレでカバー。
ミサイルP(以下M):最初から行く気はなく、作ろうとした。
いなんず氏(以下I):私はやっぱり行きたい。
A:マンガを模写したり、音読したり、ベッドで動きを再現したりということを小学生からやってた。
M:中学のときにロボットにはまる。実現できそうなものの中で一番エキサイティングだった。

Q.等身大にした理由は?

M:目の前で歌ってもらいたかったし、その方がインパクトがあるから。
A:自分の身体も道具の一つ。私は偶然、ミクの設定身長と体重が一緒だったので活用した。

Q.表情の表現について

M:目だけで結構表現できる。後は歌でカバーしたいが未実装。
A:ポーズは研究してる。中心をひもで吊るされたイメージで背を伸ばす*1。尻を出し、背を思い切り反らして二の腕を身体につけるとアニメ立ちになる。ミクの場合さらに腰を突き出したりして、かなり大変なポーズになる。
M:姿勢などについては、足を何度か切断手術することによって微調整してる。

Q.服のこだわりについて

A:ミサイルPのミクとは光り方が違う。ミクの服はぴったりしてて水着生地とか使ってるので足を光らせられない。ミサイルPのは足に埋めてる。
M:自分で裁縫してる。生地はユザワヤ派。
A:私も自分で作っている。普段着も自分の服を着ることがある。私はオカダヤ派。

Q.ポーズのモデルを見ることはあるか?

A:あまり見ない。イメージ優先で、鏡の前で身体を動かして試行錯誤。
M:私もあまり見ず、自分の身体を動かして確認してる。だから男女の身体の違いとかには注意してる。

Q.どうやって二次元ぽさを表現するか

A:難しいので試行錯誤。
M:なんとなく。ガシャガシャやってるとそれらしくなる。
A:動かすのはとにかく大変。
M:動かすとシワがよる。人間だと気にならないけどアニメだと×。ディスプレイを使って表現しようと思ったけど、暗闇で光ると不気味なので×。
A:私もディスプレイは考えた。
M:あと、汚れると洗えないのでファンデーションでごまかしたりしてる。皮膚はわりとぷにぷにしてる。

Q.スカートの処理

A:基本動くので、剥がれないよう気を使う。洗濯ができるように作る。
M:刺繍だと機械っぽくないので蛍光テープで貼った。
A:ミクは上半身は下から、下半身は上から見てるようにデザインされているので再現が大変。スカートは両サイドが前後よりもやや短くなるように作った。

仮縫いとか

(この辺から暴走モードに入るので QA 的な流れは消える)

A:はやぶさのときは仮縫い5回ぐらいした。二次元は厚い服でも胸の形が見えるようになっているのでその再現が大変だった。
I:二次元の服はかなり無理がある。ルカとかいい例。
M:自分は、絵で見て違和感がなければ立体に起こせると思っている。
M&A:作ってみないと改良点とか分からないので試してみるのが一番。

設計

M:pixiv に上げてるのは設計メモ。まともな設計図としてのルールは全然守ってない。
A:自分も最近書くようになった。

生地高い!

M&A:とにかく生地が高い!
A:抱き枕(=着ぐるみの材料)用の布は 1m^2 で 2-3000円。通常の布でも 1m^2 で1000円ぐらい。シャツ1枚作るのに 3m^2 ぐらい使うから、ユニクロで服買った方が安い。ボタンも高い。10個300円。皆さんボタンはとっといてね。ていうか余ったら私にください。
M:チャックも高い。
A:その上チャックは長さの微調整ができないから、作る前から長さを決めて買わなきゃいけない。オープンファスナーかコンシールかでも値段が違う。うちのミクの上着の前はコンシール。
M:うちのミクはオープンファスナーにした。その方が着せやすいから。
A:人形に着させるのは大変ですよね。
M:バンザイは優れたポーズ!

袖の制作談義

A:二の腕の部分の袖を止める方法ってどうしてます?
M:自分はコンシール使ってる。
A:私は平ゴム×2を縫いつけてる。じゃあ手首側の袖の筒状を維持するのは?
M:7mmぐらいの太い糸で形状を保ってる。

トルソー

A:トルソーは中々手に入らない。でもあると便利。
M:いくらぐらい?
A:中古で買ったんだけど忘れた。

ミクのマスク制作秘話

A:(油粘土とかFRPとかパテとかの用語がうじゃうじゃ出てきたがさすがについていけなかった)とにかく私の細い腕だけでがーっと作った。この話をするとすごく喜ばれるんですよね。
I:それを初動画にしたら?
A:初アップロードやってみますかね。
M:顔を塗るときに、自分がマスクの目の裏にガムテープを貼ってスプレーをかけた。そうすると裏に飛び散らないだけじゃなく、ガムテープをスキャナにかけてそれをベースに瞳を描くことができる。
M:普通の絵の具だとアラビアガムが入っているのでよくない。だから岩絵の具を使う。これだとファンデーションみたいな粉なのでいい。
A:ツインテールはそのまま垂らすと見た目がよくないのでボルトとかでがっちり固定してる。
M:自分はボンドでガチガチにしてる。
A:髪のアクセサリは針金をベースに作って宙に浮かせる感じにしてる。耳のイヤホンは実は携帯灰皿で作ってる。さらに、このマスクをかぶると外の音が聞こえないので100均のスピーカーを中に入れてる。100均のものなので小さくて取り付けやすい。

全身タイツ

A:完全に自作。白ナイロン生地を煮こんで肌色に染める。
M:ミクの肌の色って染料売ってないですよね?
A:だから自分で混ぜあわせて作成した。あと、二の腕の「01」の部分にもこだわった。誰も気づいてないけど。この部分は単にプリントするだけだとうまくいかないのでスプレーガンやらデザインカッターを駆使して作った(この辺よくわからなかった)

一応まとめ

A:SF小説とか好きだったからはやぶさをやった。これからも二次元を追いかけていきたい。
M:誰が見ても納得できる三次元のロボットを作りたい。

その他

(順序適当。カテゴライズするまでもないものをまとめた)

M&A:人の作品は怖くて触れない。触ってもいいですよと言われても無理。
A:着ぐるみとコスプレだと表現できることが違うので、表現したいことに応じて変えている。顔を出したのははやぶさが初めて。顔を出すと、写真のときに顔がひきつるので苦手。着ぐるみだと半目を心配したりする必要がない。
A:はやぶさは3次元で作り、2次元(イラストとか)に変換し、また3次元に起こし、というのをくり返してた。イトカワは、自分が最初に創作したときの生地を使って作った。
(会場に持ってきていたが、遠目から見ると確かに岩に見えた)

感想

秋の『』さんは、想像していたよりもずっとかわいらしい外見の方でした。
あのような場所でお見かけしなければ、多くの人はその正体に気づかないでしょう。
一方みさいるPは、細身でメガネをかけたおとなしい風貌で、見た目だけだとあまり目立つ雰囲気ではありませんでした。
しかしこの二人の内に秘めた狂気は凄まじいものがありました。
芸術家、マッド、クレイジー、ギーク、変態、……ああ、私の語彙では表現しきれません。
とにかくパワーとかエネルギーがすごいです。
シリコンバレーの美談で、飛行機で隣に座った富豪に何十万ドル投資してもらったとかそんな話がありますが、投資された側の人もこんなオーラを放っていたに違いありません。


秋の『』さんより服を作るのがうまい人は多分いるでしょうし、みさいるPより数段優れたロボットを作れる人もいるでしょう。
しかし、狂気という点において彼らに勝てる人がどれだけいるでしょうか。熱意があるとかそんなチャチなものではありません。狂気です。


私も技術者の端くれとして日々勉強してはいますが、今日ハッキリとわかりました。
私に足りないのは知識でも技術でもなく、この狂気なのだと。
この狂気こそが、自分の成長させる強さになるのだと。
得られるかどうかわかりません。
これこそ才能という気がします。
私のような凡人には一生手に入らないものかもしれません。
それでも欲してみようと思います。



あと、今更気づいたんですが反省会だったのにこの人たち全然反省してませんでした。

*1:全くの余談だが、合気道における姿勢維持の説明と同じだった