誰でもできる、プレゼンが劇的にうまくなる基本テクニック

私も「テクニカルエバンジェリスト」などという大層な肩書を会社からいただいており、講演や連載記事などの執筆を行っていますが、私のプレゼン技術は数年前にMSの西脇さんのプレゼンセミナーに参加させていただいて学んだものがほとんどで、正直言うとこのような記事を書いて講釈を垂れるような立場ではありません。
しかし、直近で西脇さんのセミナーがないということと、会社も大きくなり同僚が増えていく中で、速やかに自分のプレゼン技術を共有しなければならないという状況になったため、恥ずかしながら自分なりの方法を説明するためにこの記事を執筆することにしました。

プレゼンとは銘打っていますが、実際にはプレゼンだけでなく、ブログの記事執筆などさまざまな表現の場で活用することができます。"present"とは「伝える」「表現する」という意味であることからもわかるかと思います。

著者の経験

公開イベントでのプレゼンは、小さいものも含めると過去5年で50回行くか行かないかくらいだと思います(数えたことがないです)。
お客様への説明や社内での説明など、非公開の場でのプレゼンの回数はかなり多いと思います(それが仕事ですし)。年50回以上は確実にこなしているでしょう。

対象読者

Cloudera株式会社の社員向けに書いていますが、プレゼンの技法に興味がある人なら誰でも読める内容です。
ただ、くどいようですが私の記事を読むくらいなら西脇さんの執筆された本を読む方が100倍有益ですし、翔泳社のイベント一覧を常日頃からチェックして西脇さんのセミナーを受けるべきでしょう。
あくまで西脇さんのセミナーが開催されないときの代替物程度の内容ということをご承知ください。

目次

  • プレゼン作成の流れ
    1. 「誰」に、「何をしてほしいか」を考える
    2. 「出だし」と 「まとめ」と「締めの言葉」を作る
    3. プレゼンの時間を確認する
    4. 理由を掘り下げる
    5. スライドを作る
    6. リハーサルしながらスライドを直す
    7. 他の人にお願いして、通しでのプレゼンを聞いてもらう
  • プレゼンのコツ
  • やってはいけないこと

1. 「誰」に、「何をしてほしいか」を考える

「誰」、つまり対象となる聴衆は誰かを考えます。「開発者向け」みたいなざっくりしたものより、もっと具体的にイメージした方がいいでしょう。聴衆が誰かわかっているなら、特定の一人の人向けに考えてもいいです。
私がブログを書く場合、幅広い対象よりも、むしろ私の友人達に向けて書くことをイメージすることが多いです。仕事でのプレゼンの場合、製品紹介や会社紹介が多くなりますが、こうした場合に、開発者を想定聴衆とするのか、ビジネス層を想定するか、場合によって変える必要があります。

次に、「何をしてほしいか」を考えます。ここで重要なのは、「何を伝えたいか」ではないということです。このプレゼンを聞き終わった後、相手に何をしてほしいのかを考える必要があります。「よし、すぐにこの製品を買おう」と思ってほしいのか、「とりあえず試してみるか」と思ってほしいのか、「おお、すごいなあ!」と驚いてほしいのか?これらの例はどれも、相手がどう考えるかという視点に立ったものです。「何を伝えたいか」というのは自分視点であり、そんなことをいくら考えても、自分が本来意図した結果を得られる可能性は低いでしょう。

2.「出だし」と 「まとめ」と「締めの言葉」を作る

「出だし」つまり最初の掴みです。挨拶は「こんにちは」なのか「こんばんは」なのか、「雨の中来ていただきありがとうございます」なのか、「皆さん、Hadoopの運用管理どうしてますか?」と、いきなりスパッと本題に入るのか、方法は色々だと思いますが、この第一声をきちんと考えるのが重要です。続けて、「今日は○○という話をします」という主題の説明につなげていきます。
次に「まとめ」を作ります。このとき、以下のようなフレームワークで作ります。

  • 「○○(最初に説明した主題)は××なんだ!」
    • 理由1
    • 理由2
    • 理由3

最後に「締めの言葉」を作ります。「何かご質問はありますか?」から、「ご清聴ありがとうございました」というのは無難な流れですが、イレギュラーが発生したときでもうまくまとめて終わらせることができるので、こういう無難な締めを一つ持っていてもいいと思います。いずれにせよ、途中でつまづいても締めがしっかりしているだけで印象がぐっとよくなります。

そして、この「出だし」「まとめ」『締めの言葉」だけ何度も練習します。私は大抵3度は練習します。ここさえ確実にしゃべれるようになれば、どんな状況にも対応できます。例えば、30分のプレゼンの予定が10分に減ってしまった場合(よくあります)、途中の説明内容ど忘れして頭が真っ白になった場合(よくあります)、鋭いツッコミを入れられてすっかり萎縮してしまった場合(よくあります!)などの状況でも、最後に「まとめ」「締めの言葉」で終わらせれば、なんとかなるものです。

ここさえ完成すれば、あとの作業は時間はかかりますが、そんなに難しくはありません。

3. プレゼンの時間を確認する

プレゼンの環境について確認するのはこの段階からで大丈夫です。もう骨子はできてるので、あとは時間に合わせて分量を増やしていくだけです。

4. 理由を掘り下げる

「まとめ」で作成した理由を掘り下げていきます。例えば、「ダバ・インディアのカレーマジ最高!」という主題で、「たくさんスパイスが入ってるからおいしい」という理由でまとめを作ったとしましょう。このとき、なぜたくさんスパイスが入っているとおいしいのか、を考えます。自分がスパイス効いているのが好きだからか?あるいは、他の店よりも相対的にスパイスの量が多いからか?スパイスが効いていないとダメなのか?という形で理由を掘り下げていきます。

このとき、データや実例をおりまぜていくことも大切です。「例えば、ランチの定番のマトンとひき肉のカレーは…」といった実際の料理の例を出したり、「実際にスパイスの量を測定してみたら…」というデータを出してみるというのも手でしょう*1。このとき、調査して得た情報はそのソースは何であるかを忘れずに記録しておきましょう。

もし、自分の推測が入る場合は、それをきちんと明確な形で書いておくべきでしょう。聴衆に誤解を与えないという意味もありますが、それ以上に自分が「調査に基づいた情報」とご認識してしまい、説明を作る上で矛盾を発生させてしまうリスクが高くなります。そうなってしまっては誰もプレゼンを聞いてくれなくなるでしょう。

こうして書き出した新しい説明についても、繰り返して理由を掘り下げていきます。

反論を考えるのも忘れてはいけません。「スパイスなんて別にいらなくない?」「そもそもカレーよりラーメンの方がおいしくない?」など、難癖つけているだけとしか思えないような意見も含めて、思いつくだけ出してみます。そしてこれらについて再反論できなければ、そのプレゼンはどこかおかしい可能性があります。重要なのは、誰が対象の聴衆なのかを忘れないようにするということです。例えば、ビジネス層をターゲットにしているプレゼンで、「なんでHadoopはいつまでもIPv6対応しないのか?」といったような開発者しかしないような質問は想定しなくていいでしょう。

5. スライドを作る

実際にスライドを作っていきます。
スライドを作るときの基本的な指針は、聴衆が「自分が今どこにいるのか」をきちんと把握できるようにするということです。
そのために、以下のことに気をつけましょう。

1つのセクションで伝えることは1つだけ

Hadoop概要」という説明の中に、MongoDBの説明が入っていたり、会社紹介の説明が入っていると聴衆は確実に混乱します。セクション内容と異なる趣旨の説明が必要な場合は別のセクションにしましょう。
セクションそのものが小規模なプレゼンスライドのようなものなので、セクションを作るときも、セクションのまとめから作成した方が構造を維持しやすいでしょう。

1枚のスライドで伝えることは1つだけ

複雑な情報や矛盾のある情報をいきなり見せられると人間は混乱します。伝える内容が複数であれば複数のスライドにわけるべきでしょう。

  • 悪い例1 複雑な情報) 「HoloLensの視野角」というスライドタイトルで、「また、コンテンツがまだまだ少ないのも課題」といった別の情報を含めてしまう
    • 修正案) 「HoloLensの課題 (1) 視野角が狭い」というスライドと、「HoloLensの課題(2) コンテンツが少ない」というスライドにわける
  • 悪い例2 矛盾した情報) 「HoloLensは最高」というスライドタイトルで、「しかし高いしコンテンツが少ないから買うのは微妙」とタイトルと反する内容を含めてしまう
    • 修正案1) 「HoloLensの課題」というスライドを作って、「値段が高い、コンテンツが少ない」などのスライドを別に作る
    • 修正案2) 「HoloLensは一見最高……だが」というスライドタイトルにして、「買うのは微妙」というのを主題にする
絵や文字サイズは会場の後ろから見える程度に大きくする

これは上記2つを守っていると自然にできると思いますが、1枚のスライドに色々な情報を詰め込みすぎると、文字が小さくなり、プレゼンの内容がさらに理解しづらくなります。
その昔流行った高橋メソッドのような、大きいフォントで一言だけ、とまでする必要はありませんが、最低でも会場の後ろの席からでもはっきりと読める程度のサイズは必要でしょう。
プレゼンテーションツールのデフォルトフォントサイズ(多分18pt)以上をなるべく維持し、どんなに小さくても12pt (図表の補足的な文字であれば10pt程度)が限度だと思います。
どうしても12pt以下を多用しなければいけないようなスライドや図表を載せたいのであれば、それらは補足資料として別途配布という形にして、プレゼン時はより簡素にした別スライドを用いるべきでしょう。

6. リハーサルしながらスライドを直す

スライドの表現の間違いに気づく一番いい方法は、実際に声に出してプレゼンのリハーサルを行うということです。悪いスライドであれば、プレゼンのときに必ず詰まります。「あれ、この説明さっきもしたな」とか、「Aという説明からCの説明に写るのは話が飛びすぎているな」など、声に出してプレゼンすることでいくつもの違和感に気づくことができます。途中で止めてしまっても構わないので、詰まったら直していきましょう。

7. 他の人にお願いして、通しでのプレゼンを聞いてもらう

一通りスライドの作成が終わったら、同僚や友人などにお願いして、通しでのプレゼンを聞いてもらいます。このとき、説明が変なところや詰まったところなどは全て記録してもらい、リハーサルが終わった後にその記録を受け取ります。これにより、全体を見たときの矛盾点や違和感などを検出します。レビュアーからは「ぶっちゃけつまらない」「眠い」などの率直な意見をもらった方がいいでしょう。

また、時間も測ってもらいましょう。短すぎるのであれば説明をもう少し増やすべきですし、予定時間を超えたのであれば、スライドを削るか、説明を簡略化するなどして対応しましょう。

プレゼンのコツ

可能な限り聴衆に目と顔を向ける

プレゼンに慣れていないと、ノートPCの資料を読むだけ、という形になってしまいがちですが、なるべく顔を上げ、聴衆に目を向けるようにします。これだけでも結構印象が変わります。

まっすぐ姿勢よく

猫背になったり、左右に傾いたりせず、まっすぐ立ちます。目線と同様、こういったちょっとしたことで印象が変化するのでやって損はないです。

後ろの席の人にも聞こえる程度に大きな声で話す

プレゼンをしていると、ボソボソと小さい声でしゃべってしまい、マイクを使っていても後ろの席からほとんど聞こえない、ということがあります。
後ろでぼーっとしていても聞こえる程度の音量でしゃべった方がいいです。
自分の声がどのように聞こえるかは自分ではわからないので、実際の会場で、他の人にお願いして声が聞こえるかテストした方がいいでしょう。

速く話さなくていいから、はっきりよどみなく話す。「えー」「あー」を極力避ける

プレゼンに慣れていないと、「えー、これは…」「こうすると、あー、ここがこうなって…」みたいに話してしまいがちですが、テンポが乱れて印象が悪くなります。
慣れないうちは、話す情報量を減らしてもいいので、ゆっくり、はっきり話した方がいいです。

次のスライドをめくる前に、次のスライドの内容を話し始める

Hadoopとは」というスライドの次に、「Hadoopの歴史」というスライドがあるとします。普通に考えると、「Hadoopの歴史」というスライドに移ってから、「次に、Hadoopの歴史を紹介します。」のように説明を始めるものと思ってしまいます。

こういう説明だと、テンポが途切れてしまい、聴衆の集中力が切れてしまいます。

現在のスライドを開いた状態で、次のスライドの説明を始め、しゃべりながらページをめくるようにすると、テンポが途切れずとても聴きやすくなります。

先程の例で言えば、「Hadoopとは」のスライドを開いた状態で、「このHadoopが作られたのは2006年で…」と話し始めながらページをめくり、次のスライドに移る、という流れになります。

慣れるまで少し練習が必要ですが、こういう話し方に変えるだけで聴きやすさが劇的に変わるので、是非実践してほしい技術の一つです。

やってはいけないこと

基本のポリシーは、誰が聞いても問題のないプレゼンにするということです。そのために、以下のようなプレゼンを避けるよう気をつけてください。

悪口を言う

誰か、あるいは何かの悪口を言った分だけ、そのネガティブなイメージだけが聴衆の記憶に残り、結果としてプレゼンの評価を下げます。やめましょう。

内輪ネタ

内輪ネタに入れない人は疎外感を抱き、その結果プレゼンに対してネガティブなイメージを持つようになります。やめましょう。

特定のコンテキストを前提としたネタ

これは広い意味で内輪ネタの一つです。例えば、よくエンジニアのプレゼンなどで流行りのアニメのキメ台詞やネットのスラングなどを使って笑いをとろうとするのを見かけますが、わからない人にとっては疎外感を抱くことになるため、印象がよくありません。やめましょう。

特定のコンテキストそのものが主題であり、そのコンテキストを共有している人が聴衆であることが明確な場合は、多少であれば構わないでしょう。例えば、アニメの視聴率データの分析に関するプレゼンを、アニメ愛好者達に向けて行うのであれば、アニメネタを織り込むことにためらう必要はありません。しかし、こうしたネタの多用は単位時間あたりの情報の密度を下げることとなるため、濫用は禁物です。どうしても印象づけたいという場所だけに限定して使うべきでしょう。

著作権違反

ライセンスの確認なしに、ネットで「拾ってきた」画像を使うのはやめましょう。また、こうした手法は、大抵の場合、先述の内輪ネタも含まれているため、二重によくありません。

差別、人権侵害、宗教、ポリティカルコレクトネスに反する内容

男性のプレゼンでたまに見かけるのですが、「男ならこうあるべき」みたいなことをさらっと言ってしまう人がいます。性別、人種、宗教、セクシャルマイノリティ等、差別発言ととらえられてしまう可能性がある話題に触れる場合は、本当にプレゼンに必要なものであるか考えてから使いましょう。考えた結果、プレゼン内容に不要であれば避けた方がいいでしょう。
逆に、プレゼンとして必要な話題であれば恐れる必要はありません。

自虐ネタ

そもそも私自身はあまり自虐ネタを使わないのでいい例がパッと思いつかないのですが、特にプレゼンに慣れていない人や若い方で、自虐ネタを混ぜてプレゼンされる方がいます。
プレゼンへの自信のなさなどもあるのでしょうが、こうしたネガティブなネタは、ネタ自体は記憶に残らなくてもネガティブな印象だけはしっかりと記憶に残りますので、全体の評価を下げてしまいます。
慣れないプレゼンで不安かもしれませんが、自虐ネタは避け、堂々とした内容をアピールしましょう。

時間をオーバーする

どんなにいいプレゼンでも、時間をわずかでもオーバーしてしまえば、聴衆の印象は最悪なものに変わります。時間が遅れるくらいなら早く終る方が数段マシですので、時間は常に見ておくようにしてください。

まとめ

自分なりのプレゼンの方法について説明しました。これはあくまでベーシックな方法を説明したものであり、実際には状況に応じて色々な方法をとっています。こうした臨機応変の対応を身につけるには慣れるしかないので、まずはプレゼンの数をこなしてなれてください。

更新履歴

2017/02/01 8:00 くらい 初版作成
2017/02/01 10:00 自虐ネタ、文字サイズ、プレゼンにおける話し方について追記しました。thx @LET_Japan 様、@kuenishi

*1:もちろんこんなこと実際にはやっていません