ロードマップよりポートフォリオ
最近、こんなことを聞かれました。
「shiumachi 君、人生のロードマップとかそういうの持ってないの?」
「ありません」
と即答すると、「夢がないねぇ」と不思議そうな顔をされましたが、ないものはしょうがありません。
小学生だか中学生の頃に、「人生の計画を書いてみよう」という授業がありました。22才で就職して、27才で結婚して、……みたいなことを書いてみるという授業です。残念ながら、今の時代には全く役に立たないです。
ロードマップを書くような人生設計って自分の生活基盤が安定していることを大前提にしているのですが、残念ながら今の時代はそんなものは幻想なので、ロードマップを持つ意味は全くありませんし、それに依存するのは非常に高いリスクです。例えば、私は年金をもらえるなんて全く思ってないので、働けなくなってお金が尽きたら死ぬしかないわけです。会社どころか国だってこの先も存続するのかどうかわからないのに、ロードマップを書いても意味がありません。
だから、私の場合はポートフォリオを持つようにしています。
エンジニアの世界ではスキルポートフォリオという言葉が使われますが、要するに自分の所有するあらゆるものの価値を理解し、それの組み合わせ方を考えましょうという話です。ここでいう「所有するもの」というのは当然資産に限らず、知識や技術なども含みます。自分の到達目標だけ決めておいて、あとは状況に合わせてどのように「もの」を組み合わせていくかを考えていくわけです。
例えば今の私でしたら、短期目標の一つに「今の会社で優秀な hadoop のエンジニアになりたい」というものがあります。
最低限必要なスキルは「英語」「hadoop」でしょうが、「hadoop」の深い理解には「java」「分散処理」「ネットワーク」「OS」などの知識も必要ですし、より高度な活用には「RDBMS」「機械学習」「データマイニング」「セキュリティ」などなど、さらにたくさんの知識が必要になります。
また、海外の会社で働こうと思ったら、「外国におけるビジネスマナー」「外国における法律知識」「外国における会計知識」なども必要になってくるわけです。複数の国を相手にしてのビジネスを想定するのであれば、最低限の「国際情勢」「その国ローカルの政治」も把握しなければいけません。当然これらの知識を全て持っているわけではなく、限られたリソース(時間・お金など)を配分してこれらを習得していく必要があります。
こういった技術一つ一つを「今、社会で需要があるかどうか」「自分にとって学びたい内容かどうか」「今後、発展していくかどうか」などの尺度で査定しておき、それをもとにリソースを配分しておくわけです。
リスクをしっかり把握しておくことも重要です。例えば IT の知識にしても hadoop のようなソフト固有の知識はリスクの高い資産ですが、OS・ネットワーク・分散処理などの基礎技術は価値があまりぶれないリスクの低い資産です。金融資産と同様、リスクの観点からもうまく組み合わせて持っておきたいものです。
重要なのは、状況に合わせて組み合わせを変えていくという点です。
例えば万一今の会社をクビになった場合、先述の短期目標は崩壊し、別の短期目標である「死なない程度には稼ぐ」という目標も達成できなくなります。でも、上記のようなポートフォリオを持っていれば様々な対策がとれるわけです。
例えば今すぐにでも収入源を確保したいのであれば、社会で需要の高いスキルを活かして仕事を探せばいいし、少し先のことを見据えておきたいのであれば発展性の高いスキルを活かして仕事を探せばいいわけです。大学院に入学するなど、長期目標の達成にしばらく時間を使うのもいいかもしれません。もちろん、ある程度の貯金が必要になりますが。「貯蓄」も立派な(というより一般的なポートフォリオでは当たり前な)資産なわけで、しっかりと管理しておく必要があります。
「自分は子供を育てるのに手一杯でそんな冒険できない」みたいなことを言う人がいますが、このご時世で変化に対応できるようにしておかないことの方がリスクが高いと思います。会社が潰れた場合はもちろん、国が潰れた場合にもなんとか食い扶持を確保できる、と思えるようにしておくことがリスクヘッジじゃないかと思うのです。
そういうわけで、ポートフォリオを書くのは非常に役に立ちます。紙に書いてもいいし、イメージするだけでもいいですが、要するに自分がどんな「もの」を持ってて、それにどれだけのリターンとリスクがあるか、簡単に把握しておくだけでも世の中の見方が変わります。これがあればロードマップなんていらないと思います。
でも、短期ロードマップはそれとは別に必要ですよ。技術資産へのリソース投入って、時間投入とほぼイコールなので、どんな感じに時間を投入するのかはある程度把握しておく必要がありますから。私は適当な人間なので、「まあとりあえずこれとこれ勉強しとけばいいかなー」ぐらいでしか管理してませんが。